この10年間で米中関係は徐々に不安定となり、貿易制裁、南シナ海での海・空での対立、そして言葉による攻防はその関係を冷戦時代以来の最悪の状態にまで後退させた。先ごろ調印された豪・英・米(AUKUS)間の「海軍原子力推進に関する情報交換」協定は、「自由で開かれたインド太平洋」とルールに基づく国際秩序につながる安全保障パートナーシップ強化の基盤として提示されてきた。
これに対して、中国政府は、「AUKUSは"冷戦時代の考え方"を反映し、"誤った行動と危険"を伴うものであり、"地域の平和"と"国際核不拡散体制"の両方に対する脅威である」と非難している。
一方、米国では、太平洋の米国領土と自由連合国における中国の影響力の増大に対抗するためのタスクフォースが下院に設置された。昨年7月には米ハリス副大統領がフィジーで開催された太平洋諸島の首脳会議にオンラインで出席し、更なる米国の関与計画を発表し、フィジーのバイニマラマ首相はこの発表を歓迎した。その2ヵ月後、太平洋諸島の指導者たちはワシントンでバイデン大統領と会談し、数々の公約が発表された。その中には、太平洋地域に対する8億1,000万米ドルの資金提供や、キリバス、ソロモン諸島、トンガへの大使館設置などが含まれていた。
果たしてこうしたアメリカの関与が真に支援やインフラ整備の為なのか、それとも中国の覇権に対抗するためなのか疑問視する声がある。長年中国の外交政策を研究してきたフーバー研究所のDiamond氏は「中国の習近平国家主席が2013年に政権を握ったとき、中国は最悪の方向に転じた。太平洋地域における中国の目標には帝国主義的な要素があり、米国を太平洋地域から完全に追い出したいと考えている。」と語っている。一方、中国外務省が発表した外交ポジション・ペーパーには、太平洋に関する中国の立場が概説されている。それによれば、"中国と太平洋島嶼国は、発展途上国として、アジア太平洋地域の平和と安定を守り、国際的な公平と正義を守り、持続可能で強靭な発展を促進するという広範な共通の利益を共有している"とのことだ。
様々な憶測や批判にも関わらず、太平洋におけるより強力なプレゼンスを実現しようとするバイデン大統領の努力は、第二次世界大戦以降のどのアメリカ大統領よりも大きなものであることは間違いない。つい2カ月前、彼はパプアニューギニアと前例のない軍事協力協定に調印した。そして、2022年ワシントンで太平洋諸島の指導者たちと会談した後、「これから数年、数十年にわたり、我々の世界の歴史の大部分がインド太平洋で書かれることになる。太平洋諸島は、その未来を形作る上で重要な存在だ。」と述べたという。(Radio New Zealand/JUL19, 2023)