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企業インタビュー:特定非営利活動法人 パシフィックガーデン(ソロモン諸島産カカオ)

PICでは太平洋の島々と日本のビジネスに関連したストーリーを不定期でお届けします。
今回は、2021年に日本で初めてソロモン諸島カカオの商業輸入を実現させ、沖縄を拠点に活動を展開されている、特定非営利活動法人 パシフィックガーデンの伊藤 健治代表理事にお話を伺いました。

ソロモン諸島にとって、カカオは経済的・社会的に大きなインパクトを与えうる重要な消費作物と認識されています。カカオはGDPへの貢献度が高いだけでなく、カカオ生産の95%は、家族経営の小規模農家(2万人相当)で成り立っており、現地に住む人々の生活に密接した産業の一つです。ソロモンのカカオは約30年前からマレーシア(カカオ輸出の98%)をはじめとした諸外国へ輸出されてきましたが、日本での認知度は高くないのが現状です。

―伊藤様がソロモンでカカオに出会ったきっかけ、日本で販売しようと決めた経緯を教えて頂けますか?
現在のビジネスは、元々APSD(Asia Pacific Sustainable Development)での活動から始まっており、ソロモン諸島の紛争復興が原点でした。
90年代の終わりから2000年代にかけて、人口の多いマライタ島と首都のあるガダルカナル島で戦争があり、その地域の復興を目指しNPOを設立しました。人々は職を求めて首都に出てくるので、開発は首都に集中します。肌の色も違えば言葉も文化も違う、それぞれの州の中での「持続可能な開発」が復興に向けて必要だと考えました。当時は食料というか農業を早急に必要としていたので、こちらに着手をしたのがはじまりです。
当時、道の駅のように、自分達で作ったものを加工して売るというような感覚が、ソロモン諸島にはあまりありませんでした。そこで私たちはこのシステムを取り入れた人材育成が必要と考え、学校づくりをすることにしましたが、20年という歳月を要しました。この学校はルーラルトレーニングセンターという職業訓練校の名称となり、今ではソロモン諸島現地の教育省に運営される形で引き継がれ、独立しています。

―現地での育成と向上に取り組んだ先に今のパシフィックガーデンさんの事業があるということなのですね。
APSDの設立20周年を迎えた節目に、沖縄に拠点がある「パシフィック」、モノづくりを想起させる「ガーデン」と結びつけて「パシフィックガーデン」という名つけて新たに始動しました。このタイミングで、ソロモン諸島の主要作物のカカオや、ビーントゥバーチョコレートというものに着目しました。
カカオは、産地や発酵方法で驚くほどにフレーバーが変わります。雨の多いソロモン諸島では、ドラム缶を繋げたようなもので薪を焚き、その熱で発酵させた豆を乾燥させたのち、焙煎します。他の主要原産国では大量生産、農薬や児童労働の問題も浮上している中、教育熱心なソロモンでは児童労働もなく、カカオ農家は農薬を使用しません。更に調査をしていただいたところ、ソロモン諸島のカカオは栄養成分も高いことが分かりました。カカオの需要が高まっていること、発酵食品で保存が容易であること、原産国としての地理的な優位性、ブランディングなど、ビジネスとしての可能性を感じました。
まず色々な豆を集めて、フルコンテナで日本に輸入し、どのように日本に入ってくるのか、輸送方法で品質に変化がでるのか、産地によって変化があるのかを調べました。企業の支援も受けて、遂に2021年に初の商業輸入を達成しました。

―日本で初めてのソロモン諸島のカカオの商業輸入にあたり、困難だったことはありましたか?
船のアレンジは大変でした。通関に時間がかかりましたし、レバレッジ(保証金)もとられました。食物検疫も初めてなので、慣れないことが多かったです。加えて、カカオは匂いが独特で扱ってくれる倉庫が限定的だったということもありました。
どのような豆が良いか、管理の方法など、ようやく分かってきた気がします。クオリティの高い豆へアクセスするのに障害が無かったこと、クオリティに関して現地と密にコミュニケーションできたことは、これまで長年培ってきたネットワークのお陰です。

―御社が扱う商品は、ソロモン諸島独自の「ソロモンオーガニック」という認証を受けていますね。
ソロモンオーガニックは、公的な水準ではありません。ですが、公的な水準は更新やコストの面など、途上国の農家にとって非現実的な部分があるので、顔の見える生産者から買おう、というように自分達のルールを作り、農家の道案内のようなものとなっています。

パシフィックガーデンは、現在沖縄を拠点に活動しています。2020年には糸満市の公設施設内で「ピースカカオ沖縄パーラー」を開店し、ソロモン諸島産のカカオやアイスクリームの販売を開始しました。
―沖縄を拠点にされている理由は何ですか?

現地の農家の方々が、日本でマーケティングやホスピタリティを学ぶことを想定しました。寒いところが苦手な島国の人にとっては、沖縄が環境的に適していると思いましたし、沖縄は島嶼ならではの問題も抱えていて、ソロモン諸島と似ている所もあります。さらに、終戦75周年を迎えることや、東京オリンピック開催でソロモン選手団が沖縄で合宿を行うことなども追い風となり、沖縄の拠点化を決めました。どのような形で活動の拠点にしていくか考える中、ガダルカナルと沖縄の接点である終戦というテーマを軸にして、平和で両国を繋ぎたいという思いから、ピースカカオという名前になりました。
ソロモン諸島には、行き場のない豆たちがまだまだ沢山あります。大量にカカオを輸入して自社工場で加工ができる大手企業とは違い、こだわったり、個人でやろうと思うと、処理・1次加工が困難になります。カカオ=チョコレートという認識は未だに根強いですが、近年はスーパーフードとしてのカカオに注目も集まっています。ピースカカオを、カカオの多様な可能性を実験できるラボのようにして、仲間が集まる場づくりを3~4年で出来たらいいなと思っています。現在は、お菓子作りのプロに来て頂いて、チョコレート以外のカカオのお菓子を試作しています。

ソロモン諸島では、カカオの品評会開催や加工場の見学実施など、カカオ豆品質向上のための動きが活発化している。PICは、島嶼国の農業の質・技術向上を実施するPHAMA PLUSと2021年にLOAを締結しました。ソロモン諸島はじめ、島しょ国現地の農業関係者に向けたウェビナーを開催するなど、協働が始まっています。

―今後の御社の展望やPICに期待するようなことがあれば教えていただけますか?
長年にわたる活動を経て、カカオの可能性開発のための試みが自由にできる環境を作ることができたと思います。現在の課題は、マーケットの実態を肌で感じ、それを生産から販売までのサイクルの循環に生かしていくことです。しかしながら、大洋州は遠隔性、拡散性、狭隘性の不変的な脆弱性を抱えています。今後は、他のビジネスパートナーとの協働ネットワークを作り、協力していきたいです。また、原料に直接かかわれるので広く加工原料として健康食品や化粧品、ウォッカやラムの香料としての、カカオの本格的な商品化も検討しています。PICには、ネットワークを生かして、そのような取り組みに興味を持っているビジネスと繋げてもらいたいですし、そのような商品化を一緒に考える機会もあれば良いなと思います。
また、FOODEX2021のPICブースに参加することができ、大変良い機会となりました。今後も、より多くの方にソロモンの顔を知ってもらいたいので、ソロモン諸島のカカオを知って貰える機会があれば活用したいと思います。

企業情報
特定非営利活動法人 パシフィックガーデン
ウェブサイト:https://www.pacific-garden.org/peacecacao/
インスタグラム:https://www.instagram.com/peace_cacao_okinawa/

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