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PACIFIC ISLANDS NEWS [ 太平洋諸島ニュース ]

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吹き荒れる嵐:2020年太平洋諸島の見通し

太平洋諸島は気候変動、健康被害、政治的堕落や自決への努力など激動と共に、新たな10年の始まりである2020年が明けた。ラジオニュージーランド記者であるJamieTahana氏と、Johnny Blade氏がこの地域の2020年を展望する。

パプアニューギニア
マラペ首相は就任してまだ1年もたっていないが、オニール氏の長期政権を引き継いで新たな改革をするという任務がある。オーストアリアからの新たな3億ドルの融資を受けて、パプアニューギニア政府は公共サービス、法整備、男女平等の啓蒙、大学やその他の部門の再建などの取り組みが求められている。活かせる資源を持つパプアニューギニアの新しい政府が、地政学的な動向、オーストラリアとのマヌス島の海軍基地などを、中国との関係がより一層強くなる中でどのように舵取りしていくのかが注視される。マラペ首相は周囲との連携を強めてはいるが、オニール前首相が政治的に横やりを入れていることは確かである。汚職疑惑により退いた前首相の影響があるということで、現政権に対する不信感が強まる可能性もはらんでいるともいえる。

サモア
サモアの2019年は悲劇で終わった。10月以来、サモアははしかの流行によりほとんどが5歳以下の83名が死亡した。緊急事態を受けて、学校は閉鎖され公の集会は制限されたが、最もはしかの流行があった時期には1日に5-6名がなくなり、医療施設は患者であふれる事態となった。集団接種の実施を受けて、現在では流行は下火になったものの、流行の初期段階における対応の不備について政府は国民に対して回答を求められることとなるだろう。首相は、昨年は“常識の欠如”と、はしか流行についての回答をしていた。しかし、何千もの家族が罹患した事に対してはその回答では不十分だ。はしかの流行後、人々のメンタルヘルスへの関心も高い。その他の課題としては、著名ブロガーの裁判や、教会の税金未払いなどの問題などがある。

キリバス
キリバスのマーマウ大統領が昨年中国の習近平主席を訪問したのは、突如台湾との国交を打ち切り、中国との関係を持つことにしてから間もなくの事だった。 すでにキリバスは中国のツアーリストに追加され、一連の開発工事についての協議が進行している。これには、2003年に中国から台湾に国交を切り替えて以来放置されていた、タワラの宇宙監視施設も含まれている。しかし、キリバス国内ではこの国交の変更に対して人々が抗議活動をしている。また、今回の件が、年末に実施される選挙に影響を与えるとの見方もある。マーマウ大統領は、国内政治における信頼回復と彼の任期中の報道の自由に関してなどの大きな課題を抱えている。象徴的な出来事は、2018年に起き、95名がなくなったフェリー船の沈没事故で、この件に関しては最終的に発表された内容には度重なる過ちの記録があった。

トンガ
2019年9月12日、長年民主主義のための戦いを続けてきたポヒヴァ首相がニュージーランドで亡くなった。太平洋諸島フォーラムの8月に実施された会合で、ポヒヴァ首相は、これが最後の出席になると告げていた。何十年にもわたり、ポヒヴァ氏の政権は民衆にも指示されてきた一方で、権力層の勢力と対立し続けた人生でもあった。彼を失職させる企てで、議会が解散したこともあったが、ポヒヴァ氏は更に勢力を増して対抗した。息子のアキリシ ポヒヴァ氏は補欠選挙で彼の後を次いで息子のシアオシ ポヒヴァ氏が、辛くも当選した。しかし、シアオシ ポヒヴァ氏が、前首相と同様に職務に当たるかどうかは不透明である。経済の停滞、サイクロンギータの被害、莫大な債務、麻薬取引などトンガは課題が山積している。

マーシャル諸島
新たな10年はカブア氏が、現職のハイネ大統領を破り当選するという、新たな大統領選挙で幕開けした。ハイネ大統領は、気候変動への取り組みで国際的に知られた人物だ。スペインで開催された国連気候変動会議ではマーシャル諸島は、影響を受けやすい国々の先陣を切ってさらなる計画について言及したりもした。会議は最終的には非常に残念な結果となり、マーシャル諸島は前例のない記者会見を独自に開き、オーストラリアを含む及び腰の国々を名指しで批判した。カブア大統領は気候変動への取り組みは後退させないとしている。新たに明らかにされた書類は、遅々として進まない米国の核実験後の問題や放射線物質が漏れているとされている墓標の問題などについて明らかにした。この墓標について米国側はマーシャル諸島の対応責任について言及している。カブア政権はまた米国との新たな自由協定に関する交渉にも取り組まなくてはならない。取り巻く環境が変化しつつある中で、米国は次第にこの地域での中国の覇権にいらだち始めている。11月のインタビューでハイネ氏は、マーシャル諸島の地政学的位置づけはとても役に立つと述べていた。

ソロモン諸島
2019年は、ソロモン諸島が外交関係を台湾から中国へ切り替えた重大な転換点であった。台湾との36年に及ぶ国交がありながらの、この決定は世界から注目されると同時に国内の議員たちの不安を駆り立てた。去年の選挙で、ホウ氏からソガヴァレ氏へと政権が交代した。ソヴァガレ首相は連立政権を成す様々なグループからの支持を得るのには政治的な知見を出し切って政権運営に当たる必要がある。十分な話し合いをせずに国交を切り替えた事への反発は、とくにマライタ地方などを中心に未だくすぶっている。2020年、中国の支援がソヴァガレ氏を支持する議員の期待に添わない場合には政権の不安定化を招く可能性がある。

ナウル
アインギメア大統領の政権は始まったばかりではあるが、ナウルはおそらく太平洋の他のどの地域よりも台湾との強固な信頼関係があり、アインギメア氏は太平洋地域で中国の存在感が増していることを注視していると述べた。台湾の蔡英文総統が再選されたことを受け、ナウル政府は世界の民主主義を擁護し続けると述べた。しかし、足下の国内では国政を批判する人々に対しての司法の問題が問われてもいる。

ツバル
ツバルは週3便フライトがあるだけの静かな国であるが、2019年8月に太平洋諸島フォーラムのサミットが開催されて多くの人が訪れた。ツバルは気候変動の影響を最も受けやすいとされている国で、ソポアンガ首相は現状を見てもらうことで行動につなげようと努力した。にもかかわらず、ここで事態が悪化し、長時間に渡るサミット会議は、意見がぶつかり合い分断された。ポヒヴァ首相は感情を抑えきれずに涙を流し、オーストラリアのモリソン首相は、気候と石炭との間にはっきりと線を引いた。太平洋諸島の指導者たちの話し合いにツバルは落胆せざるを得なかった。ソポアンガ首相は9月の選挙で退いたが、新たな首相であるナタノ氏はこれまでのところ大きな方針変更は無いようだ。ツバルは今後も気候変動に対するより大きな取り組みを提唱し、台湾との関係も強固なまま維持していくだろう。

フィジー
バイニマラマ首相は今後も気候変動に対する行動を世界的に呼びかけ続けるだろう。COP25では、フィジーはパシフィックブルー協定を声高に提唱し、国内の船舶のCO2排出を40%削減する目標を掲げた。フィジーは2030年までに排他的経済水域の30%を保護地域とするともしている。国内では、約15年政権の座についているバイニマラマ首相とフィジー第一党の指導力が弱体化していることは確実だ。フィジー第一党がフィジー国民すべてのための政治を掲げているのに対して、野党SODELPA党は、フィジー原住民の固有文化を擁護する基金を指示するなど政策の違いが見られる。2018年の選挙ではバイニマラマ首相は僅差の勝利であり、SODELPAは着実に2022年の選挙のための準備を進めている。

バヌアツ
3月に予定されている選挙に向けてサルワイ大統領は政治的な離れ業をまさにしようとしている。それは、首相として任期満了を迎えることだ。政府が約束した政治改革は未だ達成された訳ではないので、このまま政権にいられるかも定かなことではない。しかし、彼の政党は党員数を増やし、かつ、次期政権においても中核を成す事ができるチャンスはかなりある。 古くからの政党は対立候補を擁する可能性がある一方、若い世代を代表する党を巻き込んでいるようだ。バヌアツが必要とするのは女性議員であるが、政治における女性の存在感の薄さは太平洋諸島に共通したことだ。2020年は太平洋地域にとってバヌアツが重要な役割を担う年となる。ウエストパプア問題、気候変動が議題となるパシフィックリーダーズフォーラムの開催国となる。この会議の議長として、バヌアツ政府はインドネシアに対してこの地域の一員であるという圧力をかける事になりそうだ。バヌアツはメラネシアスピアヘッドグループの議長も務める事となる。(南太平洋諸国のなかでもパプアニューギニア,ソロモン諸島,バヌアツ,フィジー,ニューカレドニアなどのメラネシア系民族国家・地域の政治指導者が組織している政治グループ)

パラオ
近年パラオは自然保護活動に注力する国として世界的な報道のヘッドラインに登場している。パラオによる近辺海域の自然保護政策はこのまま続く事が予想される。パラオは小国ではあるが、地政学的に重要な場所に位置している。レメンゲサウ大統領による政府は、台湾の同盟国として現時点では堅調である。このことで、中国はパラオへの渡航を禁止した。それでもなおパラオへの観光客の数は手堅く増え続けている。パラオへの観光客は、有毒な日焼け止めを使用できない。これは、パラオが環境保護活動において独自に取り組みを進めているまた別の例である。

仏領ポリネシア
ガストン・フロッセ元大統領は、政界に戻ることを試みている。昨年、彼と現在の大統領フリッチ氏は、公的資金を乱用した罪で有罪判決を受け罰金を科せられている。3月の市議選で政界に再参入しようとしている88歳のフロッセ氏は、先月有権者申請を却下され控訴を申し立てた。フロッセのこうした動きは、タホエラ・フイラティラ党だけでなく、フランス領ポリネシアの忠実な政治情勢にも長い影を落とし続けている。野党のオスカー・テマルは、不当な影響力が行使された昨年の有罪判決で、彼の史上初の有罪判決をめぐる控訴裁判所の判決を待っている。一方、仏領ポリネシアの反対派は、フランスの最高行政裁判所による領土の採掘に関する新たな法律に関して意義を申し立てようとしている。この法律はオーストラリアの会社、アベニール・マカテアの案件に適合され、マカテアでの採掘を再開し、27年間で650万トンのリン酸塩を抽出する許可を求めているものだ。政府は、何年もの間、何千もの仕事を約束してきたタヒチアンヴィレッジやハオ環礁の中国の養殖場など、多くの巨大プロジェクトの立ち上げで頓挫し続けており、経済は依然として低迷している。他方、仏領ポリネシア国土の資源への諸外国の関心は強いが、フランスは2013年に国連総会によって脱植民地化リストに追加されたフランス領ポリネシアの脱植民地化をめぐる国連との協力関係を拒否している。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は4月にタヒチを訪問し、次のワンプラネットサミットを開催する予定だ。

クック諸島
2020年、多くのクック島民が楽しみにしている発展を1つ上げるとすれば、それはより速く安価なインターネット接続だ。5月にマナトゥア・ワン・ポリネシアの光ファイバーケーブルが設置される予定だ。長さ3600kmの海底ケーブルが、ラロトンガとアイツタキをニウエ、サモアのアピア、フランス領ポリネシアのタヒチとボラボラを結ぶものだ。クック諸島は、同性法改革や水道水の塩素処理など、意見が2分されるような社会問題に関する熱い議論の年を迎えている。政治情勢は、2018年の選挙以降、選挙や裁判などで事態は落ち着いておらず、ヘンリー・プナ政権に対する緊張した勢力均衡が保たれている。

ニウエ
ニウエのタランギ首相は、2019年に治療を求めて島外で多くの時間を過ごした。しかし、タランギ首相は今年の選挙で再び立候補するつもりだ。一方、今年後半にマナトゥアワンポリネシア光ファイバーケーブルが設置され、ニウエ国民が望んでいたよりよいインターネット環境が整ったことは彼らにとって大きな恩恵となった。

オーストラリア
これまでのところ、オーストラリアのPacific Stepup 政策は、どちらかというと酔っ払いが躓いたような状態だ。この地域最大面積、かつ、最大の支援金供出国は、昨年、ほぼすべての太平洋島嶼国との関係において、反則技を行使した。最後はなじり合いになった会議、副首相が島嶼国の人々をpick-fruit(同性愛者を物色する)と、また世界のメディアの面前で太平洋島嶼国をblack sheep(厄介者)と侮蔑したのだ。オーストラリア政府の2020年は、世界最大の石炭輸出国であり、気候行動への遅れを抑えながら、自分をハベール(家族のためのフィジー人)と表現するという不安定な立場を固めようとしながらも、失態を減らそうとするだろう。確かに、Pacific Step-up政策は、援助とインフラ支出の増加、パプアニューギニアへの巨額の融資、労働計画の活性化、新しい巡視船、開発イニシアチブなどがあった。しかし、実際に気候変動と戦っている国々にとってオーストラリアの一連の政策は感謝を述べるほどでもなく、支持を表明するほどでもない微々たるものなのだ。この溝は、太平洋諸島フォーラムで、バイニマラマ氏とソポアガ氏の両氏が、新植民地時代の態度で太平洋の指導者を疎外したモリソン氏を非難し、そしてスペインでのCOP25で、マーシャル諸島がオーストラリアを排出削減に向けたコミットメント強化を脱線させようとしている国の一つと名指しで非難したことからも察せられる。

ニュージーランド
Pacific Step-upと比較すれば、ニュージーランドのPacific Reset政策はトントン拍子に進んだといえるが、そもそもの目標設定が低いとも言い換えられる。新しい10年は、アイランズ・ビジネスの表紙アーダーン首相の「今年の太平洋人」と名付けられたやや奇妙な似顔絵で始まった。グアムのルー・レオン・ゲレロ氏を除けば、アーダーン氏はこの地域
唯一の女性元首だ。彼女の政府は、地域へのプレゼンスと援助を増し、多くのスキームを立ち上げたが、他の主要国にこの地域の財政的重要性がなければ、Pacific Reset政策は関係性に大きく依存することになる。政府はゼロカーボン法の他、気候変動に関する他の多くの政策を可決したが、太平洋の指導者たちからすれば、引き続き「様子見」というところだ。もし説得力を伴わなければ、太平洋の指導者の目に、ニュージーランドとオーストラリアとがひとくくりに映るまでには長くかからないだろう。2020年はニュージーランドの選挙年であり、政権が変われば、より多くの地域の再設定につながるだろう。主要野党である国民党は、外務省の行き過ぎた資金提供と同様にPacific Reset政策のもと援助プログラムが変更されたことに関して非常に批判的である。(Radio New Zealand/JAN 17, 2020)