マーシャル諸島は、国民全員を対象としたベーシックインカム(UBI)制度を開始し、生活費高騰と人口流出に直面する国家として世界的に注目されている。制度は、収入・雇用・資産状況に関係なくすべての市民に定期給付を行うもので、年間4回・総額800ドルが支給される。首都Majuro在住のパラリーガル職員Anjolok氏は、かつてラーメンと水が1.50ドルで買えた時代を振り返り、現在はゆで卵1個が1ドルに上昇したと語る。彼のように給料日ごとの生活を送る国民にとって、この給付は重要な支えとなっている。制度の仕組みと財源ーこの制度は年間約3000万ドルの費用が見込まれるが、国内の税金ではなく、米国との自由連合協定(Compact of Free Association)に基づく信託基金から拠出されるため、納税者負担は生じない。政府はこの制度を「社会的セーフティーネット」と位置付け、約4万3000人の国民の生活安定と国外移住抑制を狙う。ベーシックインカムは世界各国で議論されている政策だが、AIなど経済変動への対応策としても注目されており、マーシャル諸島はその実地実験の最前線に立つことになる。支給状況と家計への影響-最初の四半期支給(200ドル)には約3万3000人が登録し、次回は約4万人が受給予定。年齢・性別・職業・所得を問わず支給される。支払い方法は銀行振込のほか、暗号資産(cryptocurrency)も選択できる。Anjolok一家は、夫婦と11歳・3歳の子ども全員が対象となり、給付金を半分貯蓄、半分生活費に充てている。国内平均収入は週200ドル未満であり、彼は「請求書の支払いに苦労している」と語り、この制度が生活の余裕につながると評価する。マーシャル諸島財務相Paul氏は、国民の46%が次の食事を心配している統計を示し、制度は食料確保に不安を抱える家庭に安心感を与えると説明した。5人家族な四半期1000ドルとなり、経済的安定に寄与するとしている。また、就労意欲を損なう懸念については否定的である。一方、上院議員Kabua氏は、給付は条件付きにすべきだと主張し、子どもの就学、通院、予防接種などを条件とする案を提案した。しかしPaul氏は、条件付き制度は運用コストが高く対象外の人も増えるため非効率だと反論し、全員対象の方が透明性が高く不正の余地も小さいと述べた。元保健長官Niedenthal氏は、低所得者がより健康的な食生活を送れる可能性を指摘しつつ、一部ではアルコールや薬物使用が増える懸念もあるとした。ただし大多数は食料など生活必需品に使うとの見方を示している。シドニー大学の社会政策学者Ravulo教授は、雇用機会が乏しい状況でUBIは貧困削減と社会問題の抑制につながると評価する。また、政府は、銀行やATM、安定した通信網がない遠隔環礁の住民にも届くよう、暗号資産支給を導入した。低軌道衛星通信Starlinkの導入により、USDM1という米国債担保型デジタル通貨が利用可能になっている。ヘルシンキ大学の政治学講師Taylor氏は、この通貨は民間暗号資産より安定設計だと説明する一方、普及はデジタル理解度や店舗側の受け入れ、日常取引の利便性に左右されると指摘。「技術だけでは普及しない。生活が便利になるかが鍵」と述べた。初回支給では約60%が銀行口座振込、残りは紙小切手で支払われ、暗号資産利用者数はまだ不明である。この制度の最大の目的の一つは人口流出の抑制だ。マーシャル諸島は米国との特別移住協定によりビザなし渡航が可能で、2021年国勢調査では2011年以降、国民の5人に1人が国外移住している。報告書は貧困と食料不足の広がりを指摘し、世帯の3分の1が「食料が尽きた経験がある」と回答している。Paul氏は出生1000人のうち300人が死亡し、残る700人の約30%が移住する現状を示し、「UBIは国民への投資であり、国内に留まる動機になる」と述べた。(Radio New Zealand/FEB23, 2026)
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