オーストラリアとナウルが先週署名した1億4000万豪ドルの支援協定は、21世紀の脆弱な太平洋諸国が歩む地政学上の危険な綱渡りの典型的な例である。同協定は、ナウルに直接的な予算支援、安定した銀行サービス、警察及び安全保障リソースを提供する。その見返りとして、オーストラリアはナウルが他国(特に中国)と締結する協定に拒否権を行使できる。拒否権条項は、オーストラリアとツバルが昨年末に締結した「Falepili Union(ファレピリ連合)」(安全保障の保証と引き換えに、ツバル人がオーストラリアの居住権と気候緩和支援を受けられるというもの)に似ている。そして先週、米国とパプアニューギニアの間の防衛協定について、さらに詳細が明らかになった。その額は8億6400万米ドルに上る。軍事インフラ開発、訓練、装備への投資と引き換えに、米国は6つの港と空港への無制限のアクセス権を得る。また、先週、PNGはオーストラリアのNRL競技における自国のチームへの資金援助として、10年間で6億豪ドルの契約を締結した。その見返りとして、「PNGは、中国警察または軍隊が太平洋諸国に駐留することを許可する安全保障協定を締結しない」ことになっている。これらの取り決めは、太平洋地域で繰り広げられている中国、米国及びその同盟国間の地政学的な争いを象徴するものである。太平洋諸国はいくつかの面で脆弱である。ほとんどの国は経済基盤が弱く、多くの国が債務危機に直面している。同時に、気候変動と海面上昇の最前線にも立たされている。頻発する異常気象からの復興費用は、さらなる負債と脆弱性の悪循環を生み出している。今年のCOP29で報告されたように、太平洋地域における気候変動対策の資金調達は、ほとんどが優遇貸付という形で行われている。太平洋地域は既に世界で最も援助に依存している地域のひとつである。しかし、援助受領国が依然として開発目標の達成に苦闘している状況では、その援助の有効性には大きな疑問が呈されている。国レベルでは、政府システムが増加する援助パッケージを管理する能力を欠いていることが多く、また、新たな地政学的状況によって求められる外交的関与やその他の義務に苦慮している。8月には、キリバスが国内問題に対処するための「猶予期間」を新政権に与えるため、2025年まで外交官の入国を禁止する措置をとった。過去には、オーストラリアは資金援助の一環として、統治と制度支援を推進していた。しかし、現在では多くの開発援助が警察活動や国防に偏っている。オーストラリアは最近、太平洋地域における警察活動イニシアティブ(Pacific Policing Initiative)に4億豪ドルを拠出することを約束した。これは、数多くの他の安全保障関連イニシアティブに加えてのことである。これは、いわゆる「防衛外交」の全体的な増加の一部であり、一部の観察者は、太平洋地域で最も弱い立場にある人々を犠牲にして援助が政治利用されていると批判している。同時に、太平洋諸国の多くの諸政党は極めて非公式に運営されており、包括的な政策マニフェストも持ち合わせていない。ほとんどの政府には、外交政策を精査する議会小委員会が存在しない。その結果、外交政策や安全保障体制は、政策優先事項よりも個人の資質によって左右され、精査されることはほとんどない。太平洋諸国はまた、トランスペアレンシー・インターナショナルの2024年腐敗報告書で強調されているように、腐敗にも影響を受けやすい。元太平洋諸島フォーラム事務局長のメグ・テイラー氏は、「太平洋地域のリーダーたちは、自分たちの地域に影響を与える重要な地政学的決定から排除されており、彼らは自国民のために声を上げる必要がある」と警告している。前述の戦略的提携には明白な利点があるものの、太平洋諸国への具体的な影響は依然としてわずかなものにとどまっている。国連のアジア太平洋地域持続可能な開発目標進捗報告書によると、2030年までに達成される見込みのある目標はひとつもない。これらのパートナーシップが誠意と真の持続可能な開発を基盤としていない限り、地政学が通常通りであることによる草の根レベルの影響は変わらないであろう。(Radio New Zealand/DEC16, 2024)
太平洋地域
【経済・社会動向】
大国間の対立で太平洋諸国への支援が駆け引きの材料に – 脆弱な島国は依然として損失を被る(太平洋諸島)
2024.12.20