9社会と生活である。 言葉や習慣の違う人々をたくさん抱えているヤップ州では、お互いの立場や風習を尊重する気風が強く、その意味では伝統が守られている。ヤップ島の社会と生活は以下の通りである。●石貨 ヤップ島で使用されている通貨は米ドルだが、ライまたはフェと呼ばれる石貨が、伝統的な貸借関係や詫びなどの気持ちを表す道具として現在も使われている。その価値は大きさや重さとは関係なく、その石が運ばれてきた背景とそれを語る人の表現能力によっても評価が変わる。サイズも直径数cmから2.5m以上の大きなものまで様々だ。その多くはパラオで産出された鐘乳石を切り出してカヌーで運ばれてきたもので、中には製作後1000年以上も経つ古いものもあると言われる。1929年の日本の調査では13,281枚を数えたが、太平洋戦争中や戦後に壊されたり海外に持ち出されたものも数多い。現在では石貨の州外持ち出しは一切禁止されている。●土地の所有制度 ヤップ島社会の基本をなすのは「家=土地」と「村」である。ヤップ人の名前は土地の名前ともいえ、漁をする海域から海岸、屋敷、芋田、畑、山まで名前と一緒に相続される。それらが地域ごとに集まったものが「村」でヤップ島には100近い村があり、それらの村が10の地区(ムニシパル)にそれぞれ所属している。ヤップ州政府が管理する公有地は全体の数%しかない。●ビンロウ噛み ヤシ科の植物であるビンロウ(ビートルナッツ)は島のいたるところに植えられており、その実はヤップ島産がもっとも品質が良いと言われる。まだ青い実を半分に割ってコショウ科のキンマの葉の上に乗せ、サンゴから作る白い粉を振りかけ、葉でくるんで口の奥で唾液と混ぜながらよく噛むと、血液の循環が促進され、顔がほてり温かくなる。ヤップのビンロウ噛みは一種の伝統的社交礼儀でもあり、島の大切な場面にはビンロウの実が献上される。●伝統の踊り ヤップの伝統的な踊りは村の歴史や教訓話を謡(うたい)に託して大切に語り継いでいく手段があった。踊り手は身体をヤシ油に溶かしたターメリックで染め、更に花や葉で美しく飾り大勢で統一された美をつくる。現存する踊りの型は様々であるが、ヤップ島に古来から伝わる踊りは本来男または女だけで踊られる座踊りや立踊りだった。離島から伝えられた棒術由来の踊りが
元のページ ../index.html#11